読書感想

暗殺の年輪 藤沢周平 文集文庫 (2003/4/25)
ベルリン国際映画祭で山田洋次監督のたそがれ清兵衛が絶賛を浴びたというニュースを聞いて興味を持った。映画の題材は「竹光始末」である。
日本の歴史の中にあった、武士社会の中での人の生き様と、人としての本質や時代の中で必要とされる人材の姿を痛快に物語っている。
いずれの物語を読んでいても、グイグイ引き込まれ、読み終わって爽やかな気持ちになる。
ドイツの人達にも、人の心の有り方が共感できたのだろうと思うと、日本の歴史の中で残してきた、残ってる多くのことを、もう少し日本人自身が理解し掘り起こし 、それを世界へ向けて発信していくことが大切であると感じる。
そういう意味では、少しずつ音楽やスポーツ、映画、科学技術などで、世界が認める人たちが出てきた。
(昨年のノーベル賞受賞者のニュースを見ていても、日本人自身が日本の中で活躍する人たちを、国の誇りとして認め、励ます環境が出来上がっているとは到底思えない )

沈黙のファイル 「瀬島龍三」とは何だったのか
共同通信社社会部編 新潮文庫 2002/12/10

この本は、どうしても載せて置くべきだと前から思っていた。多くの人に読んで貰いたいからである。
2年半も前に僕の先輩であるN専務に進められて読んだのがきっかけである。

国、組織、企業、個人が、何らかの形で対応を迫られ、意思決定をしていかなければならないことはある。
特に緊迫した状況下で、適切な判断をしていくには、冷静で落ち着いた平静な心と、鋭利な頭脳なくしては、正しい対処ができるものではない。
第二次大戦を通して大本営参謀は、侵略構想に対する策定に瀬島龍三のような人物がどうしても必要だったのだろう。

敗戦後の経済復興にも旧日本軍の延長線で経済復興が行われてきた。
それにも新たな指針を策定できる瀬島龍三がどうしても必要であったのだろう。そういうことは、大戦の体質そのままを引き継いできたと言える。
近年のニュースで報道されたような政治家、役人、企業家などが権力を利用し傲慢な言動や隠蔽、無責任な行いをしていることを見ても、大戦当時の体質は旧日本軍そのもだと言っても過言ではない。

今、そのような時代を経た20世紀型の旧政策が終わりを告げ、21世紀型の新たな社会の仕組みへと動き出し、世界、国、組織、企業、個人の中で、いろんな変化が起き模索しているのだと思いたい。
重要なことは、変化し始めた時代の節目に、今までを維持しようとするものと一歩踏み出すものとでは、猿になるのか人になるのかの差が出てくるこ とは、歴史が証明している。

あかね空 山本一力 126回直木賞受賞作品 2002.09/10

本当に久しぶりに最後まで一気に読み通したいと思った。
いろんな意味で人間社会の善さも悪さも体験することで人の心を知り尽くし、多くの人に助けられながらも懸命に生きてきた人でなければ、江戸の下町の人情を舞台にした、この物語を書き下ろすことはできない と思った。
人が寄り合って生きていく小さな単位から大きな仕組みの間で、 また人間の表や裏の社会の中で、一人一人の人間としての生き方の基本である厚情について描かれていて本当に良かった。
このような本を書く人がいて、この本を賞に選んだ人がいて、この本を読んで感動する人がいる日本、いろんなことは起きてはいるが少し安心した。